2015年1月3日土曜日

ドローン(マルチコプター)の活用で野鳥保護・観察が一気に進む。The situation that wild bird protection and observation are developed all at once by utilization of drone (multi-copter).

 昨日のNHK総合テレビでの放送で、ドローン(=マルチコプター)といわれる無人小型・無線操縦の複数回転翼飛行体による空撮で、今まで視る事の出来なかった上空からの地上観察映像が駆使されていた。既に我々の仲間では数年前から話題に上っていて、日本における第一人者を交えてどのような活用方法が在るか研究し続けてきた。

 その第一人者が、最近活性化している火山の噴火口などの調査にドローンを使用するプロジェクトへ参加の為、国交省の依頼で鹿児島まで来たので2日間拉致して人吉に滞在して貰った。

 中心になっているこの人物は、私と一緒に長野オリンピックのスノーボード競技役員を勤めた、北海道出身のドローン業界に於ける日本の草分け。20年以上前から従来の小型エンジン搭載の普通の小型ヘリコプターで農薬散布、空撮などを行ってきた超ベテランだ。この従来型の無人ヘリはいわゆる今までの有人ヘリコプターをそのまま小型化したモノで、一機1000万円もするらしい。

 しかし此処4~5年急速に開発され進化したバッテリー搭載・無線操縦で飛ぶドローンは複数の回転主翼(=マルチ)を持つ非常に安定感のある飛行物体なので、長い時間同じ場所でのホバリング(空中静止)が可能だ。同時にエンジンではなくバッテリー+モーターなので音は回転翼の風切音のみ。昨日のNHKの機体は中型のタイプで、しかもスタジオの高性能マイクに囲まれていたため風切音がうるさかったが、屋外で更に小型のタイプであれば30mも離れれば音は自然界の音にまぎれて聴こえなくなる。

 この最新型の小型ドローンを使って野鳥観察にどのように使用できるか実験した結果を2015年新年最初のブログで公開しようと思う。小型であるためバッテリーの制限上5~7分の飛行しか行えないのと、150mの距離まで飛行可能だが、目視できる距離で実証実験に制限した。同時に日本の先駆けとしては、今後爆発的に普及し事故が多発する事を予測して厳しい自主規制を課しながらの飛行を行った。車の通る道路の上は飛ばない、人が居る上空は飛ばさない。川の上でも橋の上空、橋の下は飛ばない・・・。など相当厳しい条件で飛行した。

 このドローンが野鳥の保護・観察にどのように役立つかは、幾つかの実証実験をまとめて発表したいと考えているが、まずはこの小型の飛行物体を野鳥たちがどのような目で見るか、対処するかが今回の一番の実験目的だった。詳しくは省くが、3名態勢で、ドローンの操縦・カメラ操作をその超ベテラン(無線操縦ヘリの国家試験上級資格保持・電波法国家無線資格保有者)が担当し、二人目が野鳥の動性・反応を監視、3人目がドローンと野鳥群の距離を視ながら静止画像記録を撮影した。

 詳細は重要データなので研究論文としてまとめるが、結果から簡単に言うと、野鳥群は事前の1~2分の慣らしさえ行えばドローンが近づいても逃げない事がはっきりと判った。極論を言うと、隣にこそ留まりはしないが、最終的にはドローンを脅威とは認識せず慣れてしまい、3mの距離(しかも上空)に近づいても逃げない事が実証された。この様子はドローンからの動画、地上からの静止画に記録されている。

 これにより、ドローンの活用で①貴重な野鳥の数の調査および標識確認、②採餌場所の調査、③釣り糸・釣竿など異物が絡まった個体への接近+麻酔散布等で一時的な睡眠状態にしての異物除去など、調査・保護活動に非常に役立つと思われるが、その活用方法に関しては今後の研究・実証実験の積み重ねが必須であろうと思う。

 少なくとも、音や異物飛行物体に対する警戒心で野鳥の群れが飛散し逃げるだろう、との予測は見事にはずれた。勿論幾つかのステップを経て、徐々に野鳥を刺激しないよう慣れさせての接近という慎重な実証実験のプロセスが成功に繋がったと見ている。

 単に野鳥に接近して良い映像を撮りたい・・・というような欲望で、ドローンを飛ばせばもちろん相手も逃げてしまうだろう。少なくともベテランの操縦者と事前の綿密な計画、少なくとも3名以上のスタッフの役割分担を幾度か練習して行う必要が有る事だけは述べておきたい。今回の実証実験前には数回以上の練習とシミュレーションを行った事も付け加えておく。

 今回撮影した動画は早稲田大学理工学部の研究室のレポートとして、提出後暫くして公開するかもしれないが、現時点では公開しない。

国交省と某大学の研究隊による桜島火山調査のメンバーが野鳥空撮にも参加。

さすが国としての調査には大人数が参加して行われた。我々チームの操縦士もメンバーの一員として重要な画像伝送部分を担当したようだ。

野鳥動画収録・実証実験は今回は3名で実施した。

使用機は清音・小型4発の最新式ファントムの機体。カメラはGoProの高解像度型。プロが自分で改良しているので価格は20万円程度か?機体は日進月歩で毎月新製品・新機能搭載機が格安で発売されているようだが、今回のような確実で安全な運用をするためにはドローン操縦+撮影者は最低1年以上、20時間以上の実地経験が必要だろう。

撮影時は雨上がりのタイミングだった。人吉からの往復とも雨の中だったので大変幸運だった。

スタート後上空でホバリングして反応を見る、約60秒間空中静止。

徐々に高度を下げ接近する。少しでも野鳥の側に動揺や警戒心が観られ、一斉に飛び立つような事態が観られたら、その段階で実証実験は一旦中止と決めていた。

カメラは広角レンズなのでこの距離で10m程度。しかし数羽留まる位置を替えたが、防風柵から飛び去るような退避行動は一切見られなかった。

4~5mの距離で横に移動。暴風柵の全ての野鳥(クロツラヘラサギ)をなめる様に撮影出来た。


側面から実証実験中の様子を撮影、低空から高速で接近しクロツラの真上3mを通過したが意に介さない。

ドローンより大きな野鳥は基本的にまったく動じないが、小さいカモメですら二度目の接近では3mの距離にもかかわらず、飛んで逃げるような個体は一羽もいなかった。


 簡単に言ってしまえば、ドローンなど飛ばせば、野鳥が驚いて逃げてしまうだろうという憶測が、まったく当たっていないという事。この実証結果を得られた事でお解かりいただけると思う。今後この実証結果をどのように野鳥調査・保護に役立てていくかは、更に色々な試行錯誤とアイディア実証を繰り返して進めるのが科学だと思う。

 勿論最近新聞広告で格安のドローンの広告が出ているが、購入者の半分以上が墜落させたり電線に接触させて事故を起こしている事実も知って置いて頂きたい。昔の凧揚げとは訳が違う。

 なおこのブログに関してのお問い合わせは http://www.yamasemi.org/contact_us.html からお願いをしたい。明日から急遽、極寒の奥日光・戦場ヶ原探索のため次回ブログは1月7日以降になる予定。